コラム | YOKOと過ごすフランス時間 |香りとフランス(1)

Bonjour à toutes et à tous !

紫陽花が美しい季節がやってきました。

随分前になりますが園芸が趣味のフランス人の友人に、「日本の紫陽花を挿し木したいから持ってきて」と頼まれました。自宅の庭に何本かの紫陽花の木がありましたが、フランス行きのタイミングが上手く合わなくて結局まだ実現できていません。

紫陽花は日本が原産国ですので、この友人は紫陽花のオリジナルを自分で育ててみたかったのだと思います。そういえば日本の朝顔を育てたいという別の友人のために種を保存しておいて持って行った記憶もあります。

フランス語で紫陽花のことをオルタンシア(Hortensia)といいますが、雨の雫が似合う日本の紫陽花とはまた違った印象で、フランスの紫陽花はくすんだ色とかさかさした雰囲気もあり夕暮れのようなニュアンスが感じられるように思います。

今回から2回に分けて香りとフランスというテーマでお話しする予定ですが、今日添える画像はフランスの紫陽花にいたしました。香りがあまりない紫陽花の季節に「香り」のテーマでお話するのもどうかと思いましたが、フランスの匂い、パリの薫りを想像しながらお楽しみください。

以前、フランス人の優秀な調香師の男性と東京でお仕事する機会がありました。

日比谷にあるホテルのロビーで待ち合わせていたのですが、彼はやってくるなり「ヨーコ、日本の女の子はどうして香水をつけないの?」と不思議さと残念さが混じった顔で尋ねてきました。私は心の中で「あ、またこの質問だ」と思い、それなりの理由を納得させるように言わなくてはと意気込んだのですが、彼は私の返事を待たずに「ギンザシックスからここまでたった5人だけだったよ」と言いきったのです。そうです。彼は優秀な調香師でした。そしてその5つの香水の名前を言い当てながら、日本の女性はこんなにも魅力的でおしゃれでお化粧も大好きなのにどうして香りをもっと楽しまないのか全く理解できない、とその頃には私にではなく待ち合わせていた他のフランス人達を相手に延々と話していました。

日本で香水文化が根付かない理由はいくつかあると思いますが、私はその大きな原因を作っているのは日本の男性だと思っています。日本の女性は意識的に或いは無意識に男性に気に入られる香りを選んでいるように感じます。ですから人気が出る香りは男性に人気のある軽いシャボンのような香りなのではないでしょうか。

私が初めてパリの空港に降り立った時にパリの匂いにクラクラしたということは少し前のコラムでもお話いたしましたが、これは香水というレベルの話だけではなく、場所が醸し出す薫り、実際の匂いと想像が混ざりあい脳を刺激したのではないかと思います。

そして、フランスにいるとあらゆる場面で香りが話題になります。とても驚いたのはスーパーのレジ係りの女性から私がつけている香水について尋ねられたことです。これは一度だけではなく何度もあります。また、歩いていてすれ違いざまに「あら、いい香り、なにをつけていらっしゃるの?」と聞かれたこともあります。中にはこのようにあからさまに聞くことはルール違反だという人もいますし、自分だけの香りを守りたい人は答えたくないかもしれません。私はこのような体験を通してフランス人にとって「香り」が生活の中でどれほど重要なのかを深く理解しました。

フランス人は自分らしさをとても大事にしています。そして自己表現のひとつとして欠かせないのが香りなのです。自分を引き立ててくれる香りを選び抜いて使います。その時の手段は目や耳から入ってくる情報ではなく、自分と向き合い嗅覚を信じて選んでいます。きっと子供の頃から五感の教育をしっかり受けているからできるのでしょうね。

いくつかの香りを季節で使い分ける人、ひとつの香りを使い続ける人、とその使い方は様々ですが、あなたの香りは?と聞いて答えが返ってこないフランス人には出会ったことがありません。もちろん男性も含めて。まず一日のはじまりに顔を洗う延長で軽い香り、そしてシーンに合わせて変化させながら自分と一体になる存在のようです。

私は、日本にいながら香水にとても早く目覚めたと思います。伯母がある一つの香水だけを使い続けていたおかげで、一番最初に記憶に残った香りがフランスの名香と言われる上質な香りでした。そして、少女の頃からノートが変化することや残り香がもたらす意味を体感し、女性が香水をつける仕草を美しいと感じていました。幼稚園の頃からこの伯母のところに行くと、耳たぶに香水をチョンとのせてもらえることをまるでキャンディーをもらえたように喜んでいました。

フランス語で香水をつけると表現する時には洋服を着るというときにも使うporterを使います。香りはつけるというより纏うものなのですね。

実は20年以上使い続けていた香水の調香師の方が、香水産業が目まぐるしく変化する環境の中で多くの困難さに直面して昨年ブランドをクローズされました。私は一瞬パニックになってしまいましたが、自分が選んでいた香水を創った方が繊細でピュアな心の持ち主であったことをどこかで嬉しくも感じていました。今ではもう香水瓶に一滴も残っていないのでこの香りに支えてもらうことができませんが、新しい香り探しの旅を続けています。

さて、次回は香りの歴史や香りにまつわるパリのスポットについてお話いたしますね。

皆様の毎日が良い香りで包まれますように。

L’essentiel est invisible pour les yeux.